量子コンピュータの領域でご活躍の塚本幸一郎氏をお招きし、量子コンピュータとはなにか? 量子コンピュータを生活空間・ビジネスで活かすための適用方法など、塚本氏独自の視点から見た量子コンピュータのこれからについて、全6回に渡ってお届けいたします。


第一回 量子コンピュータってなに?

今では毎日のように量子コンピュータに関するニュース記事・コラムをウェブサイト、その他いろいろなところで見かける機会が増えたのではないでしょうか。

ただ、量子コンピュータに関する記事・コラム等を参照すると、まだ大半が研究要素の強い内容であったり、量子技術を活かすためのコンソーシアムを組成したという実ビジネスの分野にはまだほど遠い現実を感じています。

いくら有用性がある技術だからといって、研究発表ばかり繰り返していても、世の中を変革する、もしくは世の中・身の回りの生活に役立つ実用性のあるものを生み出し・実際に活用していかなければ、せっかく優れた技術も陽の目を見ることなく淘汰されるのではないかと危機感を感じることもあります。

よって本コラムを通じて、量子コンピュータを生活空間・ビジネスで活かすための適用方法、ないしはアイデアを発見するための気づきを読者の皆さんへ6回に渡ってお伝えします。

ざっくりとした本コラムの流れは以下の6つのパートで展開します。

  • 1.量子コンピュータってなに? (当記事)
  • 2.いま現実世界で実現されている量子コンピュータの応用実例
  • 3.どういったところで量子コンピュータを活用できるか
  • 4.量子コンピュータを扱う上で注意すべき点
  • 5.量子コンピュータをビジネスで活かすための発想
  • 6.これから訪れる仮想空間(メタバース)へ量子力学を活かす

量子コンピュータに関する実践書のみならず、実用書も充実してきましたが、改めて基本概念に関しておさらいをしておきます。
(本コラムでは、量子コンピュータの生い立ちや、日本とそれ以外の国と比較した歴史的背景等に関しては触れませんので、そのあたりに興味がある方は、実用書等でも多く語られていますので、そちらを参考にされてください)

 

量子コンピュータは、量子力学を応用し従来型コンピューターの数百万倍の速度で情報を処理することができます。

ここで早速「量子力学」という言葉が出てきましたが、量子力学を簡単に説明すると“素粒子・原子・分子などの微視的な世界の物理現象を扱う理論体系”のことです。「全く意味不明です」という声が聞こえてきそうです。それもそのはずで、量子コンピュータをビジネスで活用する際に、前述の理論体系のことを根っこから理解しておくことが必須ではありません。

量子力学に関しては「物質のもつ色々な不確定要素が測定値不能≒数理体系化できないものとして存在する」という程度の理解で構いません。

 

ポイント1

量子力学とは、物質のもつ色々な不確定要素が測定値不能≒数理体系化できないものとして存在するものを基本とする集合体。

量子力学を応用した量子コンピュータは、情報の基本単位に量子ビット(キュービット)を用います。

従来型コンピューターで用いられる情報の基本単位である2進数(ビット)は、「0」か「1」のどちらかの情報を表現します。

対して量子コンピュータで用いる、量子ビットは一度に複数の数値を保存することができ、量子コンピュータはそれら複数の数値の塊を1回の計算で処理することが可能です。量子コンピュータが、「従来型コンピューターの数百万倍の速度で情報を保存・処理することができる」と言われる所以は、前述の“複数数値を1度に処理することできる”ため「高速処理ができるメソッド」として認知されています。

 

ポイント2

量子コンピュータは、複数の保存された数値を1度の処理で計算・処理ができる。

なお、従来型コンピュータと量子コンピュータの違いを図に示すと以下となります。

従来型のビット

(従来型のコンピュータ)「0」か「1」のビットで、情報の処理(保存・分析)を行う

 

量子ビット

(量子コンピュータ)量子ビットは「0」か「1」、または重ね合わせた両方となる

量子コンピュータは、従来型コンピュータ(というか今身の回りにあるパソコン。今執筆しているのも従来型Windows PCを使用しています)と比較すると、基本単位のビットを考えただけでも概念の違う要素で形成されていることはご理解いただけるかと思いますが、更に混乱を招くのが、「量子コンピュータ」という要素に複数の種類が存在することです。


複数存在するというより、現在開発が進められている量子コンピュータは大きく分けて2種類に別れます。

2種類とは「汎用量子コンピュータ」と「量子アニーリング方式」です。

量子アニーリング方式は、組合せ最適化問題での汎用近似解などを求めることに特化したものです。「汎用近似解」とは、組合せ最適化などの最適化問題を解く方法のことです。

更に簡単な表現を使うと、「解の精度は保証はなくとも、なるべく良い解を求めよう」という考えから生み出された方式です。

ポイント3

「汎用近似解」:最適化問題の解を求め、あらゆる数字を組み合わせて鍵を解く方法

D-Wave Systemsという会社が、量子アニーリング方式の開発に早くから取り組み商用化を進めており、既にビジネスの世界でも取り入れられています。

対して、汎用量子コンピュータは今も開発を進められている、発展途上中の量子コンピュータとも言えます。(汎用量子コンピュータのことを、「量子ゲート」と表現することも多いです。本コラムでは以後汎用量子コンピュータを、世によく知れた名称の「量子ゲート」と呼ぶことにします。

 

ポイント4

量子コンピュータには、大きく分けて「量子ゲート」と「量子アニーリング」の2種類が存在する


ここまでで、量子コンピュータの基礎概念を再理解できましたので、次回の章ではビジネス上で実際に使われている実例をご紹介します。

 

*次回「第二回 いま現実世界で実現されている量子コンピュータの応用実例」は、4月21日(木)公開予定。


■著者略歴

塚本幸一郎

ソフトバンク在籍後、SAS Institute・米FICO・セールスフォースにてデータドリブンマーケティング、カスタマサクセス、リスクマネジメントなど数多くのテーマに沿った提案・導入に携わる。
その後、博報堂、電通デジタルでデータサイエンス・デザインシンキングに関わるオファリングに従事。シグマクシス含め複数のコンサルティングファーム及び東京大学医学部発ブティックファームにて最高解析責任者(CAO) パートナー&マネージング・ディレクターとして、数多くの業種へ成長戦略策定・組織変革、経営統合(PMI)、業務プロセス改革・マーチャンダイジング・CRM最適化など上流工程から実行フェーズまで一気通貫で顧客課題・要件に携わる。

現在は非鉄金属大手のフジクラにて、全社経営戦略に関わるデジタル戦略領域をリードしている。 統計学・OR・金融工学・クレジットスコア・行動経済学等のエキスパティーズに裏付けされた、マーケティングモデル導入に関する多くの方法論適用実績を有する。
量子コンピュータ領域に関しては、実ビジネスに活用すべくデジタルツイン時代における新ビジネス領域に、経営戦略とデザインデータサイエンスを掛け合わせた具体的なビジネス開発領域を推進している。