第五回は、これまで取り上げた内容を振り返りながら、量子コンピュータをビジネスで活かすための発想法についてお届けします。


第五回 量子コンピュータをビジネスで活かすための発想

この連載も残るところ今回を含め2回となりました。

この章で、今までの章を簡単に振り返ります。

 

 

 

1. 量子コンピュータってなに?

量子コンピュータの基礎概念に関して説明をしました。
ここで取り上げたポイントは以下4点です。

  1.  量子力学とは、物質のもつ色々な不確定要素が測定値不能≒数理体系化できないものとして存在するものを基本とする集合体
  2.  量子コンピュータは、複数の保存された数値を1度の処理で計算・処理ができる
  3.  「汎用近似解」:最適化問題の解を求め、あらゆる数字を組み合わせて鍵を解く方法
  4.  量子コンピュータには、大きく分けて「量子ゲート」と「量子アニーリング」の2種類が存在する
2. いま現実世界で実現されている量子コンピュータの応用実例

国内でのユースケースをご紹介しました。
ここでのポイントは

“「量子コンピュータありきのビジネスケースを創造する」のではなく、「ニーズありきで量子コンピュータを活かす」という思考を持つと、ビジネス社会・生活者にとって必要不可欠な量子技術のビジネスアイデアが生み出される”
と、「ニーズ」「シーズ」双方を鑑みた発想法を心がけていただきたいと思います。

3. どういったところで量子コンピュータを活用できるか

内閣府の「AI戦略2022」の策定内容を例に取り上げました。
ここの章では技術的に難しい例を示しましたが、抑えどころは

“固定概念にとらわれず、量子コンピュータと別の要素(テクノロジーでもアイデア、なんでも構いません)を重ね合わせてみることで、新しい発見が見つかるかもしれない”という点です。

4. 量子コンピュータを扱う上で注意すべき点

量子技術の中核を支える人財の定義は以下4点です。

  1.  量子技術の専門性と高度スキル人財として期待される知識や技能の両立
  2.  量子科学分野の人財の多様なキャリアパスを可能とする人財育成
  3.  多様な専門的バックグラウンドをもつ優秀な人財の量子技術分野への参入
  4.  分野 融合研究、社会実装、量子新技術の社会への導入と普及を支える人財

今まで話をしてきた内容はざっくりと「技術」→「発想」→「発想」→「教育・人材」という流れです。量子力学という一見すると難しいテーマに対して、「発想」というテーマを第2・3回で既に2度取り上げるように、量子コンピュータを活かすための「発想法」が肝要だと筆者は考えています。

技術要素の根幹は当然抑えておく必要がありますが、量子コンピュータをビジネスで活かすためには豊かなビジネス経験と、それを活用するためのアイデアの源泉をアンテナ高く探索及び深化する心構えが重要です。

https://thenounproject.com/

筆者はデザイン思考(デザインスプリント)の重要性を、統計学・AI(機械学習)や経営戦略を遂行する上で日々声高に発しています。デザイン思考は“「ユーザーのニーズ」を基に「クリエイティブな発想」で解決策を見出す”ことに最適な考え方ですが、『ユーザーのニーズ』起点での発送法と量子力学の相関係数があまり適切ではないと感じています。なぜならば、ユーザーのニーズは既にAIに代表される「統計学」で解決に向けた実行計画が遂行されていることが多いこともあり、知の深化を行うにはモデルとなるニーズが非常に限定的です。
例えば最適化というテーマを基に取り組むのであれば、既にオペレーションズ・リサーチで解決されていることも少なくはありません。

デザイン思考の認知が広まった今、改め思考法を整理します。

■デザイン思考と類似する思考法との違い

出典: デザイン思考とは?なぜ必要なの?プロセスや便利なフレームワーク、企業の活用事例を紹介 d’s JOURNAL編集部
https://www.dodadsj.com/content/220427_design-thinking/

そうはいっても、「ニーズなしにアイデアはなかなか出せない」と感じる方が多いかも知れません。そこで量子コンピュータの活用方法を「ソーシャルグッド(Social Good)」なものに置き換えてみることをおすすめします。ソーシャルグッド(Social Good)とは、地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して良いインパクトを与える活動や製品、サービスの総称を指します。ソーシャルグッドの代表例は、水や空気の浄化、街の緑化、教育やヘルスケアなどが挙げられます。

「CSR」「SDGs」「ESG」は昨今ビジネスの現場でも多く出てくるテーマで、温室効果ガス(Green House Gas、GHG)排出量は多くの企業が取り組みの重要視を感じ具体的な取り組みの掲示へ舵を切り始めています。サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量について、特にスコープ3(Scope 3)の算定方法に関しては、どこの企業も苦慮しています。

特にビジネスシーンにおいては、前述3つのテーマはいずれも重要ですが、特に「ESG」は財務戦略を掲げる上でステークホルダー・取引先等を鑑み、見過ごすことのできない事象です。ESG戦略を遂行するうえで、躓くことが多いのが、ESG経営戦略は、短期的な指標で成果を判断することが難しいことが明らかな点です。 ESG自体が「社会においてどう企業が貢献できるか」を問う長期目標であるため、施策に対する結果がすぐに得られず、また取り組みへのフィードバックを得ることにも多くの時間を要します。
ESG財務戦略の話を深掘りすると止め処無く続いてしまいそうですので、そこはまた別の機会(があれば)でご紹介できれば考えています。
ただ、広義な意味でソーシャルグッド(Social Good)なテーマを課題と置き換えて、量子コンピュータで解決することを題材にするといろいろな思いが脳裏に浮かぶビジネスユーザーも少なくないでしょう。

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QUICKリサーチ本部ESG研究所が2022年1月20日に機関投資家へサーベイした「ESG投資実態調査2021」において、以下の着点が置かれています。

 

「なぜESGのテーマを量子コンピュータで取り組むのか?」という疑問に対する解は、第3章で取り上げた「量子未来社会ビジョン」で以下のような記載があります。

このように将来のコンピューティング、センシング、通信性能等の飛躍的な向上を実現する量子技術は、創薬・医療、材料、金融、エネルギー、生活サービス、交通、物流、工場、安全・安心などの多様な分野で活用して、はじめて社会経済にとっての価値を創出できます。このため、量子技術に関する研究開発や社会実装、産業化等の取組を推進する際には、社会経済システム全体に量子技術を取り入れていく俯瞰的な視点が重要です。

 

*次回、第六回「これから訪れる仮想空間(メタバース)へ量子力学を活かす」は、2022年8月20日(土)公開予定

 


■著者略歴

塚本幸一郎

ソフトバンク在籍後、SAS Institute・米FICO・セールスフォースにてデータドリブンマーケティング、カスタマサクセス、リスクマネジメントなど数多くのテーマに沿った提案・導入に携わる。
その後、博報堂、電通デジタルでデータサイエンス・デザインシンキングに関わるオファリングに従事。シグマクシス含め複数のコンサルティングファーム及び東京大学医学部発ブティックファームにて最高解析責任者(CAO) パートナー&マネージング・ディレクターとして、数多くの業種へ成長戦略策定・組織変革、経営統合(PMI)、業務プロセス改革・マーチャンダイジング・CRM最適化など上流工程から実行フェーズまで一気通貫で顧客課題・要件に携わる。

現在は非鉄金属大手のフジクラにて、全社経営戦略に関わるデジタル戦略領域をリードしている。 統計学・OR・金融工学・クレジットスコア・行動経済学等のエキスパティーズに裏付けされた、マーケティングモデル導入に関する多くの方法論適用実績を有する。
量子コンピュータ領域に関しては、実ビジネスに活用すべくデジタルツイン時代における新ビジネス領域に、経営戦略とデザインデータサイエンスを掛け合わせた具体的なビジネス開発領域を推進している。